○人間は不思議なもので、理想の夫婦を演じていると、いつの間にかそのようになってしまうのである。特に、義姫の輝宗に恨みがあるわけではないのですから、なおさらのことです。こうして、夫婦が妊娠していくと、かねてからの計画通り、英雄づくりが始まっていくようになるのです。
○この万海上人うまれかわり伝説も、輝宗は本当に信じてしまったのです。そして、その為にあらゆる準備を用意周到にしだしたのです。
こうして、尚更、義姫がつけ入るすきまなどみじんもなくなってしまったのです。
○義姫の結婚の動機も恨みでないことは、その根底には、この戦国の苦しみを解放し、安定した平和の国にしたい、その為に、仁智にすぐれた強い武将が欲しいとは、本心で願っていたに相違ないのです。なぜならば、当時、家にしばられながらも、このように戦略的に考えられる女性は、よほどすぐれていたと思うからなのです。
○こうして梵天丸が誕生すると、梵天丸は、自分の手から離れて、周囲の絶対なる信の上に育てられることになり、即ち、梵天丸は、動機の曖昧な母親の手から、絶対なる信の上にたった乳母の手に渡されて、育てられていくようになるのです。
その上に、義姫は、第二子をすぐにはらんでしまいました。そして、産まれた竺丸は、誰も関心を寄せない普通の子になってしまったのです。
○これから義姫の苦悶と悩みが始まったのです。何で政宗が万海上人の生まれ代わりであるものか、この竺丸とて同じ人間なのに、人間的には何も違いがないで