★今月の人・大山泰弘さん★
■現代のともしび人
■社員の7割超が知的障害者
大山 泰弘(おおやま・やすひろ)さん
日本理化学工業会長
1932年東京生まれ。56年中央大学法学部卒業、日本理化学工業入社。89年に社団法人全国重度障害者雇用事業所協会を設立、2003年まで会長を務めた。
知的障害者の雇用に取り組んで半世紀。チョーク製造大手の日本理化学工業(本社・川崎市高津区)には、全社員の7割を超す知的障害者が働く。経営姿勢を変えるきっかけになったのは、養護学校の先生が必死に訴えた一言だった。
1959年。養護学校の先生が卒業予定の少女2人の就職の依頼に来た。最初は取り合わなかったが、3度目の訪問で、「この子たちは、就職できないと親と離れて地方の施設で暮らすことになります。一生働くことを知らずに終わってしまいます。一度でも働く経験をさせてくれませんか」と。この一言が「今の自分を作りました」と、大山さんは振り返る。
2週間にわたる実習期間中、2人は昼食の時間になっても手を休めることなく、懸命に汗を流した。心を動かされた従業員が、最終日に「我々が2人の面倒を見ますから」と懇願し、採用が決まった。
75年には、同社の知的障害者の雇用率が50%を超えた。現在、本社と北海道美唄市の工場の全従業員74人のうち、54人が知的障害者(重度障害者は33人)だ。
初めて採用された女性の一人は64歳になり、嘱託として接客などをこなす。96歳の母親と支え合って暮らしているのだという。
能力に合わせて工程を考えた共生型の生産ラインは、誰が作業をしても同じ結果が出せるように工夫が施されている。機械を始動・停止させるタイミングを計るのには、砂時計が使われている。計量は、同じ色の原料を同じ色の容器に入れ、同じ色の重りと釣り合えば済むようにされている。製造ラインの知的障害者の比率は、9割を超える。
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