2)実名は秘名・知られないように隠した「御守り名」
◆ 「な」とは何か?
名という漢字のおこりは、夕に口と書くように、夕方になると暗くて人の顔がわからないから、口を開いてあなたは誰と聞かねばならない。そこから来た感じといわれる。でも「な」はやまと言葉だから、既に漢字が導入される以前から「な」はあったということである。それでは「な」というやまと言葉は、何なのか?
古代では、「な」というやまと言葉は、自分にも(一人称)相手にも(二人称)使われた言葉である。我、あなた、お前である。韓国語でも「ナ」は私、「ノ」はお前という。「ノ」を呼びかけるときには「ナー」となまるから同じである。古代朝鮮語と古代日本語は非常に近い関係にあったとする研究もあるから、どちらにしても「な」は個人を表す言葉であったに違いない。
その「な」に漢字が当てられ「名」になり、それに接尾語の「前」がつくようになった。これは、「名」を神聖なものとして表すためにつけられたものである。だから「名前」という意味は、神様からの贈り物、神様から賜ったものという意味なのである。
◆ 「名は体を表す」の意味は、名には魂が宿っているから、
簡単には名告れない。
安倍晴明流でいえば、「名」は「呪」ということになり、それを名告れば虜になるということだ。
万葉集には、「たらちねの母の呼ぶ名を申さめど 道行き人を誰と知りてか」というのがある。”自分の母親だけが呼ぶ実名をどうして知らない人にいえましょう”という意味の句が載っている。
これは男も女も実名は簡単には知らせないよ!実名を名告るときは、身も心も相手に捧げるときということなのである。
実名には魂が宿っているから、もし悪神や鬼神に見込まれてしまったら大変なことになるからである。だから、古代では実名を名告らないのが習俗であった。
だから、「名前」は自分を守るための「御守り名」ということであった。
その名前を教えることのできる人は、自分の夫や妻以外にはいないのである。