■野球もうどんも夢の実現
條辺 剛(じょうべ・つよし)さん
元巨人軍投手
1981年、徳島県阿南市生まれ。阿南工高卒。右投げ右打ち。巨人での通算成績は111試合登板、9勝13敗6S、防御率4.58。「讃岐うどん 條辺」は東武東上線上福岡駅徒歩2分。(電)049・269・2453。
◎ 江口聡子撮影 2005年10月。いつものように練習のためグラウンドへ向かった。入り口近くで球団の人事担当者に呼び止められた。「今日からユニホーム着なくていいから」。戦力外通告だった。「頭の中が真っ白になりました」
◆ 野球少年が夢のプロ野球へ
小学2年生のとき、地元の少年チームで野球を始めた。高校は野球推薦で実家に近い阿南工高に進学。甲子園出場はならなかったが、3年生のとき練習試合を見に来ていたプロ野球のスカウトの目に留まった。その年の秋のドラフトで、巨人から5位指名を受けた。
188センチの長身から繰り出す直球を武器にリリーフ投手として活躍した。2001年には、10代投手としては87年の桑田真澄選手以来となる開幕一軍入りを果たした。
◆ 戦力外通告からうどん修行
しかし、好調は続かなかった。疲労や故障が重なり、03年以降は痛み止めの注射を打ちながら一軍と二軍の間を行き来する毎日。「先が見えなくて悩み、力みが出てピッチングにも影響した」。戦力外通告を受けた後、合同トライアウト(入団テスト)にも参加したが、不合格。「ずっと野球しかやってこなかった」だけに、次に何をしていいかすら思いつかなかった。
そんな中、同郷の先輩で親しくしていた野球解説者の水野雄仁さんから、うどん店での修業を勧められた。ふと、小学校の文集に、将来の夢は「プロ野球選手」と「飲食店経営」と書いたことを思い出した。早速06年2月から宮崎県の店に入り、同年6月には本場・香川県の老舗讃岐うどん店に移って修業した。
香川の店では、半年間は皿洗いや小麦粉運びなどの雑用ばかり。毎朝4時には店に出て下ごしらえなどの開店準備をした。空いた時間に県内のうどん店を食べ歩き、ビール瓶を転がしてうどんをこねる練習もした。
やっとうどんを打たせてもらえるようになると、今度は体が悲鳴を上げた。「野球と違って背中や腰に体重をかける。慣れるまではぼろぼろでした」。指はけんしょう炎になり、マッサージや注射が欠かせなかった。