真弓の性格は変わってきたのである。この家庭内性格を見て
もわかるように、性格的にこれはもう男である。
●こんなに強い真弓から見れば、何と頼りない夫だろうと真弓の目
に映っても無理からぬことであった。ところが、性格が強いとか男
であるとか、女形であるとかが本当の問題ではない。本質的に、夫
婦でいちばんの問題は、相性的に、互いに愛情交流ができるかどう
かにある。この夫婦、お互いに同じような愛情運である。互いに”愛
を確かめたい”にもかかわらず、”無い物ねだり”になるのである。
一緒にいても愛情を共有できないのである。要するに相性的に
は、合わないのである。
お互いに愛情交流ができない。それでいて、妻が強くて、夫が頼り
なく見えてくる。愛情的に相性が合わないものだから、そうなると
不満が残る。仕事で外とのつながりが増えれば増えるほど、いい男
が目の前に現れてくる。(本当にいい男はざらにいるもんじゃあな
いけどね?)
それに目的に向かって考えながら走る真弓にとって、横山さんをど
うかしようって目的が出てくれば、必ず行動に結びつくようになる。
●こういう悪い動機を心に持ち続けると、そういう因縁で結ばれる
人間関係が生まれてくる。(要するにいつも文句を言っていれば、
愚痴ばかり言いたいもの同士が自然と集まるようなる)ということ
で、出会った女が渡辺俊子であった。この女も暴力団と関係がある
ことからわかるように、相当なもんである。ただし、男っぽいかと
いえばそうでない。女性的であるが、知恵がある。暴力団には合わ
せてつきあいながら、知恵で荒波を乗り切ろうとするタイプである。
だから自分でアクションを起こすより人を動かそうとするのである。
真弓の話を”そうか!そうか!”と聞いてくれる俊子は、たぶん、
いい愚痴をこぼす相手であったに違いない。そこに入れ知恵が入っ
て、自分の密かに思い描いてきたことが現実化するようになるので
ある。
●悪い思いを描いていれば、いつか悪い結果が結ばれるようになる。
とはこういうことを言うのである。ここでひとこと。
●愛の表現は惜しみなく与えるだろう。しかし、愛の本体は惜しみ
なく奪うものだ。
(有島武郎)